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きむらまどか
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2012年04月03日

’80 樹 林(喫茶店)

2007年3月27日(火) 06:30 ▼コメント:8件

樹 林(じゅりん)

 帯広市東4条南10丁目、現在オカモトの本社が賃貸で入居している旧ケイセイ本社ビルの建っている場所にありました。付近の景色で変わらないのは双葉幼稚園くらいでしょうかね。

 本来はホワイトデー前にアゲるべき記事でしたけど、喪に服していたんでスッカリ忘れていましてね。昨晩憶い出した次第。まぁ、アゲんよりいいだろう、ということで。キーワードについては、またイズレ。って、またどなたかが催促されないと追加しないんでしょうが。

 あ、チナミにワタシ、柏小も六中も関係ございません。イチオ、念のため。創作ですからねぇ。



 こわばった表情のボクをフォーミュラカーが迎えた。意外なほど華奢な姿は、とてもサーキットを奔るレーシングカーには見えなかった。剥き出しのタイヤが、「これでも結構早いんだ」と主張していたけれど。

 ベージュのダッフルコートを着ていた。全然気にいってなかったが、他に適当なものが無かった。母に「洋服センター」の安売りに連れていかれて、無理やり決めさせられた。本当は「とくら」で買いたかった。

 店内を見回す。桂永子は、まだ来ていない。角の席が空いていたので、そこに決めた。コートを脱いで、椅子に置いた。パイプに布貼りなのが、お洒落に見える。

 「双葉幼稚園」の東側に『樹林』はあった。ボクが「柏小学校」を卒業する頃だったか、建物が出来上がって喫茶店になった。「六中」の不良がかった連中は学校の廊下で、コーヒーやコーラを注文して「スペース・インベーダー」をやった話を声高にしていたが、ボクは近寄れなかった。

 「柏葉高校」に合格するのに、内申点が足りずにいた。このままでいくと試験当日八割近く正解する必要があった。クラスで七名が柏葉に入る六中にいることが恨めしかった。他の中学なら、楽勝で内申ランクB以上は確保できているだろうに、六中ではDだった。

 一・一倍という合格倍率もまた、絶妙だった。落ちる確率は低いが、間違いなく落ちる奴がいる、というのは不合格に対する恐怖を倍加させた。「三年B組金八先生」も観ず、バレンタインデーなんて気にもしていなかった。けれど、奇跡が起こった。

 放課後、教室の掃除を終わらせて、ダッフルコートに袖を通すボクの前に桂永子が立っていた。黙って、四角い包みと手紙を差し出す。意識を真っ白にしながら、ボクも黙って受け取った。

 桂永子はクラスでトップの成績だった。学年でも三本の指に入っていると噂されていた。バスケット部のキャプテンも務めた彼女は、眉目秀麗でもあって男女共に人気が高かった。

 ボクが勝っているのは身長くらいのものだ。グループは一緒だったけれど、恋愛対象として考えたことはなかった。むしろ人気者の彼女を疎んじていた。眩しかったせいだ。

 それから、頭の中は桂永子のことで一杯になった。でも自分を見失うことはなかった。桂永子は柏葉合格間違い無しだったから、ボクさえ合格すれば楽しい高校生活が約束されている。だから、気合が入った。

 受験の下見に行く時、並んで歩いていったのが、初めてのデートといえば、言えなくもなかった。受験番号はボクが先だったけれど、机の位置は桂永子が前の方で、彼女の姿が見える場所にあった。

 玄関ロビーに中学の先輩達が書いてくれた檄文があったが、ボクの名前は無かった。代わりに出席番号がボクより一つ前のクラスメートの名前があって、名簿を見間違えたのは理解できたけれど、気分は良くなかった。

 帰り道も、二人で並んで帰った。けれど、ほとんど話はできなかった。受験が早く終わってしまえばいいね、と、卒業式のあとクラスみんなで遊べたらいいね、くらいだった。

 伝えたいことは一杯あった。でも、緊張感がそれを阻んだ。
「明日からがんばろうね」
 別れ際、桂永子が手袋を脱いで右手を差し出した。あの時のあの感触、昂揚した気分は今も忘れられない。

 二日間の受験が済んで、卒業式も終わった。自己採点で合格圏内に入っていることは確認できたから、ボクも余裕があった。卒業証書を手にしながら、言った。「十四日に会えるかな」時間と『樹林』の場所だけを伝えた。桂永子は周りの視線が気になる様子で、うつむきながら、「わかった」とだけ言った。

 合格発表の日、ボクはラジオの前にいた。自分の名前が聞こえたその瞬間、思わず叫んだ。二人とも合格した。桂永子に電話したかったけど、明後日には会えると我慢した。むこうからの電話に期待していたが、かかってはこなかった。

 約束の時間から三十分経った。ボクはまだ一人だ。半分残したココアも冷めてしまっている。コートの上に置いたクッキーの包みに西日がかかった。場所をずらす。ドアが音をたてる度に振り返った。水を注ぎに来たウエイトレスの視線が痛い。

 来ないのはどうしてだろう。桂永子に何か嫌なことしてしまったのだろうか。向いの席を見つめたまま、ボクは固まっている。結局桂永子は来なかった。クッキーを残して店を出た。夜風が身に沁みた。

 ボクは抜け殻のようになっていた。翌々日、桂永子から手紙が来た。「あなたのことは好きだけれど、こだわりは持ちたくありません」と書いてあった。全然意味がわからなかった。

 浮かれていた自分が腹立たしい。ボクは手紙を燃やした。

 後日わかったことだが、その年の柏葉は入学辞退者が多く、二名追加募集した。
(了)

あとがき

 実は余り記憶残ってないんです。でも取り上げてしまいました。想い出のある場所には違いないので。あの頃は近くに北高もありました。1848さまは影も形もない。
 画像についての呪縛を解くことにしました。これからは昭和にまで遡るかもしれません。




コメント(8件)

03-27 09:04
ナナ
奥が深いですね。。
何度も同じ部分を読み返してしまいました;

“せつない恋”より
“ハッピーエンド”の方が好きだけど
入りこんでしまいました。。。

03-27 14:01
ピョン子
このお話はノンフィクション?なんですかねぇ?
私も20数年前をうっすらと思い出しました(^^;)
春のせいか”恋”がしたいですね(*^_^*)
しかも初初しいの☆
(でも現実は3児の母(>_<))

「とくら」懐かしいです(^o^)

03-27 14:55
みっき-
男の子は単純ですので…(笑)

いまだに女の子の気持があまり理解できない36歳です!

03-27 20:50
端野 萬造
>ナナさま
 げにワカラんのはオンナゴコロでございますよ。クラスメートから、チョコレート貰ったんですよぉ。そのコがワタシのこと好きだったのを知らなかったのは、ワタシだけ、というハナシも。

 普通それで、同じ高校に行くことになったんだしモリあがろうってのが普通ですよね。その気マンマンで、沖縄で買ってきたサンゴか何かを渡すべくお手紙書いたらさ。

 「好きだけれど、こだわりは持ちたくありません」って綺麗な文字で書いてある。あれ、なんだったんでしょうね。

>ピョン子さま
 エピソードには現実が散りばめてございますけど、全体はフィクションですよ。ただ、その時代を共有された方には、なんらかの感情が芽生えるのではと。

 映画「誰も知らない」では、子供(父親が皆違う)が何人いても、恋に奔るオンナが描かれておりましたよ。如何です?

 ミズ・とくら、とかご記憶でしょうか。

>みっき-さま
 この時のエピソードのお陰で、女性に真っ当なアプローチできるようになるまで、何年もかかりましたね。でも、ヤッテみると意外に簡単だった。

 もう、ノウハウを駆使する機会はございませんねぇ。

03-27 20:59
みっき-
えっ体験談だったんですか!・・・プププ(ニヤ)

03-27 22:53
端野 萬造
>みっき-さま
 体験談とは異なります。エピソードとして、実体験が裏打ちにあるだけですね。なんせ、創造力に欠けるものですからぁ。

03-29 23:43
しょうぞう。
さりげなく登場させていただき…感涙(T-T)
彼女がいう、この場合の「こだわり」とは何を意味するのでしょうね。
ボクお子ちゃまなのでわかりませ~ん(^^;

03-30 05:59
端野 萬造
>しょうぞう。さま
 あそこの高校のコは、こういうワケノワカラン発言するコ少なくないわよ、とコメントした「同窓生」がいらっしゃいましたね。まさに謎でございます。

 しっかし、どなたも「樹林」についてはご存知ないのかのぉ。

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Posted by きむらまどか at 06:07│Comments(0)創作・失われた街角
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